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横浜地方裁判所横須賀支部 昭和34年(わ)178号 判決 1959年10月06日

被告人 落合ハツミ

昭四・三・二〇生 無職

主文

被告人を免訴する。

理由

本件公訴事実は、被告人は飯島タケ所有の横須賀市汐入町五丁目六番地所在の家屋を同人から月六千円の家賃で賃借し、右家屋に左記犯罪一覧表記載のとおり、昭和三十四年四月十一日頃から同年五月二十日頃までの間、山本エミコ外一名の女子を住み込ませ、不特定の客多数を相手方として性交させ、その対価を同女等とそれぞれ折半して所得し、以つて人を自己の占有する場所に居住させ、これに売春をさせることを業としたものである。というのであつて、右の事実は、飯島タケ、山本エミコ、鈴木マサエの各司法巡査に対する供述調書、山本エミコ、鈴木マサエの各検察官に対する供述調書、被告人の当公判廷における陳述並に供述、司法警察員及び検察官に対する各供述調書(但し判示認定に反する部分を除く)を綜合して、これを認めることができる。

犯罪一覧表

番号

売春婦氏名

年令

売春期間

摘要

1

山本エミコ

二一

自昭和三十四年四月十一日頃

至同年五月二十日頃

2

鈴木マサエ

二三

自昭和三十四年五月五日頃

至同年五月二十日頃

しかしながら、被告人が、「被告人は、吉村一郎所有の横須賀市汐入町四丁目五十六番地所在の木造二階建家屋の二階二号室及び五号室を同人より借り受け管理していたものであるが、昭和三十三年十一月六日頃から昭和三十四年一月十五日頃までの間、山本恵美子外一名の女子を右二号室及び五号室に住み込ませ、同所において不特定の客である米駐留軍兵士多数を相手方として性交させ、その対価をパイラ代二割をさし引いた残額を同女等とそれぞれ折半して取得し、以つて人を自己の管理する場所に居住させ、これに売春をさせることを業としたものである。」との事実につき、昭和三十四年四月二十七日売春防止法違反の罪名で同法第十二条の罰条をもつて当裁判所に起訴され、同被告事件について当裁判所が同年五月二十六日第一回公判期日を開き、同年六月十九日の第二回公判期日に弁論を終結し、同月二十六日の第三回公判期日に被告人を懲役八月及び罰金参万円に処する(但し右懲役刑については参年間刑の執行を猶予する)旨の判決を言い渡し同年七月十一日右判決が確定したことは当裁判所に顕著な事実である。

思うに、売春防止法第十二条所定の「人を自己の占有し、若しくは管理する場所又は自己の指定する場所に居住させ、これに売春をさせることを業とした」罪(管理売春)はいわゆる職業犯ないし営業犯であつて、ことに、同法条所定の「業」とは、行為そのものの特性ではなく、行為主体すなわちその罪を犯した犯人そのものの特性であつて、「業とした」ことは犯人の属性であり、その行為内容は本来数個の行為を予想しているものであるから、同法条に該当する所為が、(一)時を同じうし、場所を異にして数個ある場合、並に(二)社会通念上接着し連続したものと認められる短日月の間に、場所を異にして数個ある場合には、ともにそれらの数個の所為は同一人格の発現としてこれを理解し、同法条に該当する一罪(管理売春)を構成するものと解すべきである。(同法第十一条第二項の罪についても同様である。)

然らば、本件起訴にかかる事実が前記被告人が確定裁判を経た罪と社会通念上接着し連続したものと認められる短日月の間に行われたものであるかどうかについて案ずるに、前記山本エミコ(昭和三四、六、一八日附)鈴木マサエ(昭和三四、六、一五日附)の各司法巡査に対する供述調書並に被告人の当公判廷における供述によれば、被告人は昭和三十三年十一月頃から昭和三十四年二月中旬頃被告人が前記確定裁判を経た罪について検挙されるまで、横須賀市汐入町四丁目五十六番地でいわゆる売春宿をしていて、その間に右確定裁判を経た罪を犯したものであるが、同所の売春宿が摘発されるや、ほどなく、同年三月初頃本件起訴にかかる同市汐入町五丁目六番地の家屋を飯島タケから借り受け、その頃同所において売春宿を開き、その後同年五月二十日頃までこれを経営し来り、その間に同所で本件起訴にかかる所為を敢行したものであることが明白であるから、本件起訴にかかる事実は前記確定裁判を経た罪と社会通念上接着し連続したものと認められる短日月の間に行われたものと認めるのが相当である。

してみれば、本件起訴にかかる事実は、前記被告人が確定裁判を経た罪と相通じて一個の売春防止法第十二条に該当する(管理売春)罪を構成するものといわなければならない。そして、一罪の一部について確定裁判があるときは、その確定裁判の既判力は、その裁判の言渡の時までに行われた爾余の部分にも及ぶものと解するから、右一罪の一部につきすでに確定裁判を経たものであること前敍のとおりである以上、該確定裁判の既判力は、その言渡前の所為であるその余の本件起訴にかかる事実にも及ぶものと解するのが理論上当然の帰結であつて、その結果本件起訴にかかる事実は結局確定裁判を経たものとなるものであるといわなければならない。

したがつて、本件公訴事実については、すでに確定裁判を経たものであるから、被告人に対し、刑事訴訟法第三百三十七条第一号に則り、免訴の言渡をしなければならない。

右の理由によつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 上泉実)

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